ダイヤモンドラプソディ 1
■5月20日の真選組にて
ああ、どうしよう。
とうとう今日という日を迎えてしまった。
屯所のカレンダーを何度睨んでも5月20日から変わるはずもなく。
(あー、どうしようマジで・・・)
手元には鉄道のチケットが2枚。有効日時は本日より3日間。行先は・・・なんで此処?!な観光地。
山崎はこのチケットを前にずっと頭を抱えている。もしこれが恋人だと言い張って憚らないあの男、河上万斉から寄越されたものだったら鼻で笑って燃やしてやるのに。寄越した相手が相手だけに無下にも出来ない。なぜならこのチケットを山崎に寄越したのは鬼の副長、土方十四郎だったのだから。燃やしたりなんかしたら今度は俺が燃やされる。そんな目には遭いたくないし。
何故にこんな取扱いに困る物を渡されるに至ったかというと、時をかなり遡る。
ざっと説明すると事の起こりは俺の誕生日にあのバカが指輪なんぞを寄越したんだが、ご丁寧に一度嵌めたら最後外れない仕組みになっていた事だ。
案の定その指輪はすぐに組の皆に気づかれ、さんざんからかわれた訳だ。大人しキャラで通っている俺だが基本短気なんで、既にイライラは最高潮に達していたんだ。そんな時だ、屯所の廊下で副長とばったり出くわしたのは。
この人がこの騒ぎに気づいていないはずもない。現にからかわれている時点で突き刺さるような視線を何度も感じてたしね。
副長を覗えばものすごく不機嫌そう。こっちだって機嫌最悪なんだよ。ここでなんか言われたらいつも通り対応する自信なんかないくらいに。でもやっぱり副長は空気読めないとこあるからね、案の定話しかけてきたんだ。しかものっけから喧嘩腰だよ。
「おい、山崎ぃ。ずいぶん楽しそうじゃねぇか。仕事中だってのにいい度胸だなぁ」
「なにがですか」
楽しくなんかないのにムカってするよね。刺々しくなったて致し方ないよね。
「なんなんだよ、その指に嵌ってるモンはよぉ。仕事中だぞ。公私の区別をつけろよ。仕事は遊びじゃねぇんだよ」
この時点で俺の中の何かがプツンときれちゃたんだよねぇ。
「公私の区別ってなんですか。既婚者なら結婚指輪してるじゃないですか。俺のこれだって遊びじゃねぇよ。歴としたそういうもんなんだよ。副長は知らないのかもしれませんが、昨日は俺の誕生日だったんでアイツが贈ってくれたんですよ。あんたいつも言う事が理不尽なんだよ」
と、ここまで一息で捲し立てると、副長は目を見開いて驚いた様子だった。
「や、山崎お前、彼女とかいたのか!?」
「彼女なんかいませんよっ」
つい、即答してしまった。山崎退、一生の不覚。
「あ?」
「へぇ〜。」
と、そこへ沖田隊長が現れる。それはとてもとても愉しそうに。
「ザキの恋人は男でしたかぃ」
「は?」
しまった。忘れていたがここは屯所の廊下。副長なんか「あ?」とか「は?」とかしか言えてないけど、周りに他の隊士が居たんだった。だけどここで引き下がるような真似はしたくない。
「それがなにか?アンタ等に関係ありますか」
監察筆頭の本領発揮。今後なにか言われたりするのも面倒なんで、とにかく黒い笑顔と有無を言わせぬ雰囲気で付け足しておく。
「俺のプライベートに口、出さんでください。そういう訳でこの指輪は今後外しませんので」
外したくても外せないんだけどね!男と付き合ってるとかバレちゃってこれからどうやって生きてけばいいのぉぉおおおお!!!とか実際は思ってたんだけど、何食わない顔で仕事をこなすべく監察室へと急ぐしかなかった。
それからというもの、屯所での俺の扱いが少しずつ変わったんだ。別に迫害されたとかじゃないよ?
皆が俺に気を使うようになっちゃたんだよね。監察筆頭の本気の黒山崎は強烈な印象だったようだ。副長ですら俺に気を使う始末だもん。
相手の誕生日に何か返すのか?みたいな話しになった時に、「仕事も休めないし特に予定も立てません」と答えたら、副長ってば「うっ」って言葉につまっちゃって。それから申し訳なさそうに誕生日は何時だと聞かれ、答えない訳にいかなくなってしまったんだ。
5月も半ばに差し掛かった頃俺は副長室に呼ばれた。
「いつも仕事ばかりで悪かったな。今まで碌な休みもなかったから、2週間くらいなら仕事の方はなんとか調整したから・・・。次はいつ休みが取れるか分からないからな。その、良かったら行ってくるといい。というか副長命令だ行ってこい」
そう言いながら渡されたのがこの鉄道のチケットだった。
副長命令って何だよ。相手にだって都合ってもんがあるだろうよ!と脳内で激しくつっこんでおいたのは言うまでもない。
休みも言い渡されちゃったし、副長命令だしとにかく出かけるしかないか・・・