ダイヤモンドラプソディ 2
■5月20日の鬼兵隊にて
屯所に逃げ帰ったあの日から万斉とは一切連絡なんてとってない。いや、万斉からは着信やメールが再三来るんだが、その全てをことごとく無視してやった。
だって、そうだろう?屯所であんな騒ぎになったのは万斉のせいなんだからさ。これくらいの事はしたっていいと思います。
それはさておき、相手は鬼兵隊の幹部。真選組とて容易に居所を掴めない。
だけど俺は今、忍び装束に身を包み、鬼兵隊の戦艦に潜伏しちゃってるんだ。俺にかかれば居場所を探し当てるなんてちょろいよね。
(どうやって?)
ま、それは企業秘密ってことで。
(なんの為に?)
万斉を掻っ攫う為に。
いつも俺ばっかり連れ去られているから、偶にはこっちから仕掛けてやる。
じゃあ何でそのスキルを普段から使わないのかって聞かれると思うから先に言っとくけど、めんどくさいからに決ってんじゃん。
それに万斉は変態ストーカーだけど、俺はプロのストーカー(監察)。だいたい組の頭が真正のストーカーだもん。器が違うんだよ。
万斉はというと、高杉の部屋に居た。
「しんすけぇ〜。今日は何の日か知ってるでござるかぁ?拙者の誕生日でござるよぉ〜!?それなのに、それなのに・・・何故に退殿から何の連絡もないのでござるかぁ〜!!」
「・・・万斉。てめぇそれ今日何回目だ。そんなに騒ぐくらいなら屯所でも襲撃して掻っ攫ってくりゃいいじゃねぇか」
高杉のまわりの空気が一瞬にして凍りつくようだ。
「だって、だって・・・退殿が、屯所に来たりしたら殺してやる。二度と会わないって・・・」
(そういえば、そんな事を一方的にメールしたんだった。だから全然会いに来なかったのか。忘れてたよ)
「っとに、うぜぇな万斉。ずいぶん嫌われてるみてぇだし、なんなら俺が今すぐ殺してやるぜぇ。誕生日が命日とはめでてぇじゃねぇか」
そう言うと脇に置いてあった愛刀に手を掛ける。高杉の目があながち冗談とも思えない色を湛えている。
(お、このままにしておけば鬼兵隊内部抗争で潰れるかも!と思わなくもないが・・・)
「なっ、早まるな、晋助!拙者再び退殿と会いまみえるまでは死ねぬでござる!」
「退、退うるせぇよ。会いに来んなっつって、手前からも会いに来ないって事はもうダメだろ」
「ううっ退ぅ。拙者を捨てるのでござるかぁー」
大の男が、それも人切りと恐れられる男が窓に走りより、空に向かって半泣きだ。
(結構情けないものを感じるが、俺が悪いのか?忘れてただけなんだけど、あれ、もしかして俺って結構酷い?)
「退ぅーっ、さがるぅぅううー」
(はあ、ほんとにめんどくさい男だな。でも来るなって言ったから本当に来ないとか、ちょっと可愛いいな。ここらへんが治め時かも)
「誰が呼び捨てて良いって言った?」
すっと2人の間に舞い降りる。
「さ、退!?」
「だぁから、気安く呼び捨てんじゃねぇよっ!!!」
言いざま万斉の鳩尾に重い一撃をお見舞いする。体術なら真選組で俺に勝てる奴はいない。それに不意を突けたのも功を奏してか、あっさりと伸びてくれた。こいつ本当に人切りかと心配になる。
伸びてしまった万斉を軽々と肩に担ぎあげるのを高杉は黙って見ていた。
「手前が真選組の狗か」
「お初にお目に掛かります。真選組の山崎退です」
「万斉を随分と腑抜けにしてくれたもんだな」
「そんなに褒めんで下さい。そんな大したことはしてませんよぉ」
と、にへらぁと笑っておく。
「・・・誰も褒めちゃいねぇんだが」
「えっ、そうなんですか?」
「まあ、俺の部屋まで来れるたぁ、大したもんだとそれに関しちゃ褒めてやらぁ」
「それはどうもありがとうございます」
またもにへらぁと笑う。人をばかにしたような笑いでなんとも人を不快にさせる。現に高杉の眉間に皺がよってきた。もうさっさと退散した方がよさそうだ。
「ところで、万斉しばらく借りますね」
「どうするつもりだ」
「やだなぁ。真選組に連れてったりなんてしませんよ?そんな事したら自分で自分の首しめますからね。まだまだ死にたくないんで俺。ちょっと誕生日祝いに連れ出したいだけですから」
「生憎、そいつもそんなに暇じゃぁなくてな」
「あははは、嘘ばっかり。今回貴方が江戸に来た目的ぐらい知ってますよ?その会合だって上手くいったばかりじゃないですか。それで、次の動きまでしばらくありますよね。・・・で、どうします?」
「くくくっ全てお見通しかぃ。こっちが黙って送り出せば、そっちも黙ってるって訳か。見かけによらず有能な狗だ。」
「じゃ、交渉成立って事で」
万斉を担ぎ直し、部屋を出ようとするところで「おい」と呼び止める。
「こっちはそれで構わねえが、お前は真選組の狗だろう?」
その問いに山崎はニタァァアアと黒い嗤いで応え、今度こそ部屋から消えた。
敵同士の馴れ合いに些か懸念を抱いていた高杉だったが、山崎の中に狂気を垣間見て、成程、万斉が気に入る訳で、どうりで山崎も万斉と付き合える訳だと一人納得したのだった。