ハッピーハロウィン 1
「あ、万斉先輩!いいところに来たっス」
拙者が久方ぶりに鬼兵隊の船に戻ると、鬼兵隊幹部が船の甲板で集まりお茶をしていたようなのだが、その中でもまた子が満面の笑みで拙者を迎えるなど悪い予感しかしないのだが。
「いいところとは、何でござるか?」
「さあさあ、軍資金を出すっス」
「は?」
帰艦早々カツアゲに会うとは思いもよらなかったでござるよ。と、晋助へ目を向ければ、紫煙を燻らせ苦笑している。苦笑ではあるがトゲトゲしさもなくどこか優しげな雰囲気を纏っていて晋助の機嫌がいいらしいことが伺えた。そうなれば、また子のカツアゲは晋助も了承済みという事で、拙者が資金を出す事がもう必然的な流れなんでござるか・・・でも一体何の為?
「パーティーをするそうですよ、万斉さん」
武市殿が教えてくれるも、何のパーティーなのかが不明だ。これでも幹部なのに皆バカでござるか?武市は頭脳派ではなかったか?鬼兵隊大丈夫でござろうか。
「もうすぐハロウィンだよ。俺たち鬼兵隊もいろいろあったからねぇ。ここらでぱぁっとやって、隊士たちの士気を高めようって我らが総督のご厚意さね」
さすが年配者。以蔵殿が常識人のように思えたでござる。だがハロウィンと晋助、似合わないでござる。そんな突拍子もない取り合わせを考えてしまったが為にいつものポーカーフェースが崩れて考えている事が顔にでてしまったようだ。晋助の空気が不穏になった。
「晋助・・・」
「万斉、てめぇ今何考えた?俺がンな事考える訳ねぇだろう。来島が言い出したに決まってンだろうが。」
ああ、なるほど。ちょっと安心したでござる。
「まあ、隊士の士気を高めるってのは俺にも異存はねぇンだが、何しろこの前船だめにしちまったりとかいろいろ損害が大きくてねぇ。鬼兵隊あげての騒ぎに隊の金を使う訳にはいかねンだよ。そんな訳だ万斉、よろしくな」
「どんな訳ぇぇえええ!?」
晋助のご厚意じゃなくて、もう完全に拙者のご厚意だよね?ついつい本音が口をついてしまった。晋助に睨まれたでござる。
「・・・しかたが無い。そのパーティー代拙者が工面するでござるよ」
がっくりと肩を落としながら了承する。なんだかんだ言って多額の個人資産を有しているのは万斉なのだから、そうなるのは当然の流れか。
「やったー。じゃあ決まりっスね。さっきも言ったとおりパーティーでは全員仮装を忘れないでするっスよ!!」
「仮装?なんの為にでござる?」
「はぁ!?万斉先輩知らないんスか?ハロウィンといえば魔女とか、お化けとか南瓜とかに仮装するのが習わしっス。」
(習わしなのか?)
また子は目をキラキラさせ当日に想いを馳せているようだ。
「晋助様―!また子は晋助様の為にとびっきり可愛い魔女になって見せるっス!楽しみにしてて下さい!!」
ここで『可愛い魔女』というフレーズが万斉の何かの変態スイッチを起動させてしまった。そして考える。そんな万斉を晋助が訝しんで見ていると、万斉がおもむろに口を開いた。
「晋助、拙者ひとつ頼みがござる。そのパーティーに拙者の恋人を呼びたい。全て拙者持ちなのだから、そのぐらいの我儘を聞いてくれても良いでござろう?」
河上万斉、己の欲望に忠実に生きる男である。口元には不敵な笑みが浮かんでいた。
「え、万斉変態先輩に恋人いたんっスか!?」「どんな奇特な娘だろうねぇ」「年齢はおいくつですかぁ?年若い子ですか?」などと三者三様のちょっと酷いんじゃないかというリアクションが繰り広げられている。が、ここは無視の方向で。
晋助の隻眼が『俺が何も知らないとでも思ってんのか』と万斉に突き付けてくるようで。目がそらせないでいた。やはり晋助はあなどれん。気づかれていたかと苦笑するしかない。
「連れてきてどうすンだ?」
(俺に殺してほしいのか?)と暗に言っている目だ。
「なに他意は無い。拙者の可愛い恋人を自慢したいだけでござる〜」
にへらぁと気持ち悪い顔でそんな事を言う万斉にうんざりした様子だ。
「可愛い、ねぇ」
「疑うでござるか!?ならどれだけ可愛いか今からじっくり説明・・・」
「うぜえ!」
一喝で万斉の惚気だか自慢だかを阻止するに成功する。
「だが、真面目な話。きっと晋助とは気が合うと思うでござる」
「ほう?そりゃァ会うのが楽しみだな」
「あっでも、気に入っても手を出したらダメでござるよっ。あれは拙者のもの故」
「あーはいはい。ほんっとお前うぜえなっ!」
こうして鬼兵隊幹部はげんなりとしてお茶会はお開きとなった。その中で万斉とまた子だけは揚々と自室に引き上げるのだった。