無邪気な裏切り
★こちらのお話は微妙に「そして麻酔が切れた時」の続きっぽくなっとります。そしてほぼ土方さんの独白です。それでもOKな方はどうぞ〜です。
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俺の部下は何でもかんでもそつなくこなす。それでこその監察筆頭であるのだが、時にそれが気に入らなくもあり、思わず拳が炸裂する。それでも山崎は理不尽だとか言いながらもいつも俺の少し後ろでへらへらしているような男だ。
だから山崎に対して変な自信があって、どんな扱いをしても大丈夫なんだと思っていた。そして、それが間違いだったと気づいた時にはアイツはもう俺の後ろでへらへらなんてしていなかった。
最初に山崎の異変に気付いたのは総悟だった。他の人間ならだれも気付かないくらいの些細な変化だった。笑顔が胡散臭いらしい。そして屯所を空ける夜がだんだんと増えている。一般隊士など監察が夜な夜な屯所を空けても気にも留めないだろうが、夜の密偵命令など出した覚えなど無い。奴はいったい何処に行っているのだろうか。本人を問い詰めてみた所でうまくはぐらかされるだけだろう。副長である俺に対しても平気でそういう事をする、そういう所が気に入らなかったりするのだが、監察筆頭に勝てる筈もないのだから仕方ない。そうしてそのまま夜の不在を聞けないままだ。
しかしその理由を偶然にも知る事となった。夜の見回りに出ていた時の事、どこか見慣れた後姿を目の端に捉えた。夜で暗い上に夜色の着物を纏いわざわざ暗い裏道に入り込んでいく男がいる。どんなに暗くても長年一緒にいれば見間違うはずもない。迷う事無く男の後をつける。しばらく行ったその先に、長身の男が佇んでいる。その男を見つけると山崎は小走りに駆け寄って行った。
丁度街灯の薄暗い灯りが山崎の顔を微かに照らしだしている。そんな顔は今まで見たこともない顔だった。俯きがちながらも目を細めそれは綺麗に微笑んでいた。男が何か話しかけながら山崎の頬に片手を当て上を向かせると、山崎は無邪気に笑った。
なんだその男は。男は背中に何かを背負い特徴的なシルエットをしている。
一体誰だ?本当は知っている気がするが今は思い出したくないと心がブレーキを掛ける。
今までの俺たちに見せていた山崎の笑顔は何だったんだ?全てが嘘だったのか?足元がグラグラと崩れそうな錯覚に襲われる。酷く裏切られた気分だ。
―――
先程から俺の事つけてるの気付いてますよ。俺が気付かない筈無いでしょう?
副長、今日は何の日か知ってますか?いつからか祝の言葉さえ言ってくれなくなりましたね。
それがアンタの照れ隠しみたいなもんだとは分かってます。
でもね、アイツは俺に欲しい言葉をくれるんです。
俺の事信頼してくれてるのは重々承知していたるつもりです。
だからアンタについていこうと決めてたんですよ。
だけど、だけど・・・もう限界なんで
―――
山崎は一瞬だけ視線を寄越す。そして唇が音もなく言葉を形作る。
『 限
界 で す 、す み ま せ
ん 』
そして夜の闇へと姿を消してしまった。
果たして裏切られたのはどちらが先だったのか。