添い遂げる  <2014/退誕ss> 



褥の中、今己の隣で疲れ果て無防備な裸体を晒し眠りについた愛しい人。あと数刻で日付が変われば彼が生まれてきた祝福すべき日となる。

できればその瞬間を一緒に迎えたかったのだが、それはやめておこう。無理を強いた自覚はある。起こすのは忍びない。

それに、仕事柄他人の気配に敏感な退が今は拙者の隣りで寝息を立てて眠っているのだ。なんと幸福な事だろうか。

つい口角が上がってしまうのが止められない。

今宵、退に贈るものは永遠の『約束』。

もうこの者から離れる事はできそうもないのだ。だから永遠を誓わせて貰う。そして退が忠誠を誓う奴等に対する宣戦布告でもあるのだ。

『退、覚悟するでござるよ』


日付が変わり2月6日がやってきた。

予てから用意しておいた品を退の左手薬指にそっと嵌める。

「どうか拙者を主の傍らに...死が二人を分かつまでどうか添い遂げさせてほしい」

薬指に口づけならがら、そう願った。

できれば朝までこのまま、退の温もりを感じていたいし、出来る事なら本当に最期の時まで添い遂げたいと希っている。

だが。

褥の中、結構激しいフックが寝返りと共に繰り出される。

その次はかかと落としがやってきた。

更には二人で被っていた布団を持ってかれた。

止めとばかりに、ごろんとまた寝返りをうった拍子に褥自体から追い出される始末。

最初にこんな扱いを受けた時には、本当は起きてるんじゃないのか?実は拙者嫌われているのか?と疑ったものだが、深い寝息に熟睡していると知れた。退は大変寝相が悪かった。

これでは、最期どころか朝までだって添っているのも難しい。が、拙者は負けない。それ程に気を許してくれていると前向きにとらえよう。

必ずや最期の時まで添い遂げて見せるでござる。

そうして今日もまんじりともせず、朝を迎えるのだ。

■□■

「退、朝でござるよ。早く起きねば遅刻をするぞ」

万斉の声で起こされるのは結構好き。今日も気分良く目覚められそう。

「んー、万斉...おはよう」

「ああ、おはよう。そして誕生日おめでとうでござる」

「うん、ありがと」

欠伸をしながらまだ覚めやらぬ目をこすって左手の違和感に気がついた。

「え、何これ、プレゼント!?」

薬指には銀色に輝くリングが嵌っていたのだ。

薬指に銀色のリングなんて。万斉を見やればすっと自分の左手を見せる。そこにも揃いのリングが嵌められていて、窓から差し込む朝日に照らされ鈍い光を放っている。その意味するところを想い胸が高鳴る。

「こ、こ、これって・・・その、あの・・・」

「これは拙者の想いでござる。拙者はもう主から離れられぬ。故に永遠を誓わせて欲しいでござる...受けてくれるか?」

「えっ・・・」

そんな事突然言われても即答出来るはずもなく、どうしていいか分からずに指に嵌ったリングにもう片方の手を添えてみれば・・・あれ。

「ちょ、何これ。動かない、てか抜けないんですけど!?」

「さよう。そのように作ってある」

えええ――――!!どうすんのこれぇぇええ!!!サーっと血の気が引いた。

「アンタ何してくれちゃってんのォオ?」

「拙者の覚悟を見せたまで」

「はあ?」

「もう、主を離してはやれぬでな。添い遂げる覚悟を」

「こんなんに、覚悟なんぞ見せんでいいわーっ!」

さすが変態だ。斜め上を行ってくれる。ある意味期待を裏切らない。

「さあ、主にも覚悟を決めて貰おうか」

ふざけるのも大概にしろ。

「阿保かぁあ」と万斉を殴り飛ばし衣服を鷲掴み、逃げるように屯所に向かった。

屯所に向かいながらも思い浮かぶのは鬼の副長。結構鋭いあの人の事だ、簡単にリングに気づくだろう。俺、今日生きていられるかな。外れないリングに『どうすんのこれぇぇぇ』と頭を抱えた。


――― 誕生日にプロポーズとか恥ずかしすぎるだろ。

それにちょっと嬉しかったなんて、俺はもう、末期らしい。


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退、お誕生日おめでとう!!
でもこれ祝ってんのか?途中からわからなくなりました(笑)
<PYON>