ちょっと仕事は休憩中!(前)
「ぬしを拙者のものとするために来たのでござる」
目の前の人斬りの口からそんな言葉が紡がれた。冗談では済まされない真剣な眼差しに思考が追いつかない。
これは、いわゆる『告白』なのか!?
こんな地味な自分にそんな事が起きるのか!?
いや、それ以前にこいつは敵だし。いやいや、もォっとそれ以前に俺たち両方とも男なんですけどぉおおお!!
山崎は無言のまま、脳内で激しくツッコミを入れていた。
だがしかし、河上から視線を逸らす事もできない。逸らしたら負けのような気がするし、その時点で相手に隙を与えるようなものだ。そんな恐ろしい事は出来ない、絶対に目をそらすもんかと自分を叱咤する。
気が付けば何時の間にか河上と己との距離が詰められていた。
うわ、近いです河上さん・・・
身長差のせいで上から覗き込まれ、必然的に自分は下から奴を見上げる恰好になっている。あれ、これってなんか・・・この体制はなんかまずくね?
至近距離で見る河上の目はザングラス越しだというのにやたら力強くて、絡み合った視線に息が止まる。
「・・・?」
あれ?実際に息、止まってるし!
気が付けば己の唇が河上のそれと重なっている。
「ん、ん――!!!」
がっしりと肩と後頭部を抑えこまれていて、離れられない。両腕を使って河上の胸を押しやるも、びくともせず、力の差にちょっと涙がでそうになる。河上はぎゅっと抱きしめ最後に舌で山崎の唇をなぞりあげた。その行為に背筋に言いようのない悪寒ににも似たものが駆け上がり山崎は身を震わせる。その直後、鳩尾にかなりの衝撃がはしる。殴られ気を失わされるのだと気が付いたが、気付いた時には既に目の前がだんだんと暗くなり山崎にはどうする事もできなかった。
薄れゆく意識の中で河上の満足そうな声が聞こえた。
『告白し口づけまでしても無抵抗とは・・・返事は『OK』ということでござろうか?フフ・・・もう拙者のモノでござるな、退殿』
―――ち・が・・・・う、のに!
山崎にとっては不本意極まりない内容だったのだが反論するすべがない事がただただ悔しかった。そして世界は暗転した。
もう、己の躰はずっと揺さぶられている。口から出る声は既に掠れ、意味のなさない悲鳴とも嬌声ともつかないものばかりだ。
攫われてからどれくらい経ったかなんて、既に時間の感覚のなくなった俺には分からない。ただ、数時間とかの単位じゃなく幾日かが経過している事は確かだと思う。こんな事になった一端を自分が担っているのは確かだが、それにしてもこの男ときたら。
ああ、どうしよう。記憶が曖昧だ・・・
この男は本当に最低だ。
意識を失い攫われた俺だが、連れてこられた何処ともわからない場所で意識が浮上した時には既に体を繋げられていた。
河上は宣言通り俺を自分のモノにしたらしい。それにも驚いたけど、それよりもこの変態の性格はどうにかならんのか。会話がまともに成立しているのかも怪しい。
「あんた、意識のない人間になにしてんだよ」
「何とは、ナニの事でござるか?」
「ばっ、あんたばかだろ!」
「いやぁ、退殿の寝姿があまりにも無防備で」
「寝てたって・・・、あんたが気を失わせたんだろうがっ!」
気を失っている間にコイツはいったい俺の体に何をしたんだろうか。何の抵抗もなくコイツのモノを受け入れてるなんて絶対におかしい。
「俺の体に何をした」
「ちょっと苦しそうに寄せられた眉間も異様にそそったのでな、ぬしの目覚めまで我慢できなかっただけでござる」
「いや、我慢しろよ変態」
ありったけの悪意を込めて睨む。
「変態とは酷いでござる・・・。だが実際、こうでもしておかねば主のこと、いとも簡単に逃げたであろう?主の腕はそのぐらいには、かっているでござるよ」
「あんたにこんな状況で言われても全然嬉しくない」
こんな状況とは、敢えて説明するならば、一糸纏わぬ裸体。背の後ろで1つにまとめられて縛られた両手。これは自身の重みも掛かり地味に痛い。足の間に入り込み変態にがっしりと腰を掴まれ、その変態と一つになり、その変態に布団の上に押し倒されているという、傍から見れば超絶屈辱的な状況だ。
「ずいぶんと余裕でござるな。ぬしの意識も戻ったし、そろそろ頃合いでもござろう。こうでもしとかねば、本当に主は逃げるであろうからな。準備は万端でござるよ」
そう言うと突然河上は腰を動かし始めた。
「うあっ」
河上が腰を動かし始めた途端、在りえないほどの快感が己の中心から脳天まで突き抜ける感覚に体が震えた。
コイツ、やっぱり一服盛りやがった。ある程度の薬には耐性がある体なのにこんなにも効くなんてどんな劇薬使ってくれてんだ。やっぱり天人渡りの物だろうか。こんな時でも頭の中だけは冷静に、一瞬で分析してしまう仕事が染みついた自分が悲しい。
特に取り乱すでも、泣き出すでもない山崎の姿に河上の嗜虐心に火が付いた。まだ繋げたばかりで、かなり薬が効いているにも関わらず容赦なく腰を打ちつける。抱き心地が悪かったのか後ろ手に縛られていた手は解放された。その手は河上に縋るでもなく、必死にシーツを掴み迫りくる絶頂を逃そうと耐える。唇も固く引き結び声も堪える。
これは闘いだ。少しでも河上に自分をさらけ出したら負けだ。そう思った。持前の強靭な精神力でどうすれば河上に屈服しないでいられるか考える。その間にも河上の動きはますます激しくなり、声を殺すのも難しくなってきている。時折いいところを突かれるたび体がはじけそうになるが、根性と気合で耐えた。だが、それにも限界がある。中を激しく突かれるだけで、その他には一切触れられていないにも関わらず山崎自身は透明な蜜でドロドロで反り返っているのが自分で触れてなくても分かった。目の前がチカチカしてきていて本当に限界が近い。
河上はいったい何がしたいのだろう。真の目的はどこにあるのか、闘いの最中山崎はそれがずっと気になっている。
腰を激しく動かしながら河上は己の下に組み敷いている山崎の強情さに少しだけ舌を巻いた。かなり強い薬を使ったのだ、声も出さずに堪えるとは思っていなかった。予想外の反応に嬉しくなる。やはり拙者が見込んだだけはある。その負けるもんかという姿が実にいじらしく可愛かった。だが同時にどうにかして屈服させたいという欲求がもう最大値だ。
どうやら体に与える負荷は負荷とは受け取られないらしい。監察だからだろうか。いや、この行為は誓って負荷を与える為にしている訳ではない。純粋に抱き合いたかっただけなのだ。なのに山崎のこの反応はちょっと面白くない。体がだめなら精神的に責めるのみ。
「さすがは監察筆頭というところか。こういう事には慣れていると見える」
「ち、がう・・・ふぁ、あっ」
もともと山崎には貞操観念というものが無い。それは山崎の無頓着な性格に依るものだ。だが、監察だからといって色を使って仕事をした事なんて無い。思わせぶりな素振りをした事ぐらいはあるが、体を使ったりなんて断じて無い。誇りを持っている仕事を誤解されるのは堪らなかった。だからそれは違うと、つい声を出してしまった。折角今まで声を堪えていたのに、一言声を出しただけでもう、だめだった。
「やっと声を聴かせてくれたでござるな。嬉しい退殿。拙者本気で主に惚れておるよ」
「えっ、ほ、ほれ・・・て?あ、アン・・・」
「アン、とは。本当に主は愛らしい。さあ、拙者の為に存分に啼いてくれ」
河上の目的に何か裏があると思っていただけに、実は本当に自分に惚れてるのだと告げられ堪えていたもの全てがどこかへ消え去ってしまった。
シーツを掴んでいたはずの手はいつの間にか河上の首に回り、一度開いた口は閉ざされる事なく喘ぎを漏らす。そしてついに一度も触れられる事なく勢いよく果てた。
果てたばかりで肩で息をする山崎を見下ろす河上からはいつのまにかサングラスもヘッドホーンもなくなっていて素顔がやけに爽やかだった。予想はしていたけれど端正な顔立ちにイラっとした。でもその男の眼差しが愛おしそうに自分に向けられているのは悪くはなかった。
だから、つい。自分を気遣ってなのか離れようとする河上に向かって手を伸ばし、つい言ってしまった。
「ねえ、もっと・・・。もっと頂戴」
河上の目が驚きで見開かれるが、直ぐに笑み崩れる。
「招致仕った」
これから後の山崎の記憶は曖昧でしかない。
そして闘いは自らの失言により敗北に終わった。
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はい、初R18ですね(汗)
皆様に不快なくお読みいただけてるか心配です・・・。基本的にR18になると万斉様がどうしても変態仕様になっていくのはどうしてなんだろう?
まだ少し続きますが長くなりそうなので一旦ここで切ります。
<PYON>