年上山崎 IN真選組 




「・・・あ。それ今月号のじゃん。後でコレとトレードしてくんない?」

「あー山崎さんオツカレっす。もうちょっとで読み終わるんで、それからでイイっすかー?」

ふらりと立ち寄った隊士の大部屋。若い隊士らに見終わった自分の雑誌を掲げれば、あっさり軽い返事がもらえた。

「じゃあ、ここで待ってていいかな? あー良かった、どっちにしようか悩んでこっちにしたんだけど・・・もう本屋に置いてなくてさぁ」

「あー・・・ありますよね、そういうの」

「つーか山崎さん、こういうのも読むんだ・・・ちょっと意外」

新米隊士らの輪は、やはり若手が多いことから溌剌と賑やかましい。

最近の流行や茶屋の娘、色街の噂話などに興じる彼らは、俺という異分子がするりと潜り込んだことに何の違和感を覚えていない。いや別に、それも自分の仕事のうちだから別に構わんのだけど、こうも無防備だとなんというか・・・複雑な気分だ、うん。

「ねぇ、ココって・・・俺まだ行ったことないんだけど、実際どうなんだろ?」

指差してみせたのは、読み終わった雑誌の巻頭に取り上げられていた、江戸一番店だという甘味処。桃色フリルな店の雰囲気が女の子に大人気、だという触れ込みの。

「あっその店・・・開店の日非番だったんで、初日で並んできましたよ、俺!」

「何それすげぇ!? ど、どんなだった?」

「いや〜並ぶ価値は大アリっすよ・・・あと、超重要なところ、店員の子・・・レベルが滅茶苦茶高いんで、目にも美味しいってゆーか」

お前ソレが目的だろ! などと突っ込むじゃれ合いが微笑ましい・・・って、アレ? なんか孫を見るような心境。なにこの微笑ましい心持ち?

「花と団子と両方楽しめんだ、いいねぇ」

「そうなんスよ。綺麗なのも可愛いのも店の子のタイプがイロイロ揃ってて・・・あ、でも」

ズリ、と膝を詰めてきた隊士の顔は、何と言うか・・・蕩けてキモい。あとお前ハァハァすんな。

「ちょっとミステリアスってゆーか、なんか不思議なコがいまして―――サキちゃんっていうんスけど、あのコ・・・超オススメっす!」

「―――・・・ふーん・・・」

咄嗟に顔面の筋肉が全力で仕事してくれたおかげで、ポーカーフェイスがギリギリセーフ。危ねぇ。

だって、覚えるも何も・・・―――ソレ、俺本人だから。
この世で『サキちゃん』をご指名できない、御本人と言う名の希有なただ一人ですから。

「・・・へえ、覚えとくな・・・サキちゃん、ね」

・・・まぁ・・・気付けとは言わんよ。それが俺のオシゴトだし。端くれだけどプロだし。

「そうなんすよ! 何と言うか、可愛いというより深みがあるというか、オーラが違うっつーか・・・それでいて給仕の動きが何かすげぇ綺麗なんすよ、あれはプロです!!」

うん。分かったからちょっと力説止めてお願い。プロとか調子こいてゴメンナサイ。監察筆頭の乏しいライフはもうゼロよ!

「もう山崎さん、テキトーにほっといて下さいね。コイツこないだからずっとコレばっかなんで」

「あぁああ早く次の非番こねぇかなあぁああ! 逢いてぇなぁああもう、サキちゃーん!」

「・・・そんなにか」

こんなときどういう顔をしたらいいか、俺分からないの・・・っつーかそれ以前に、何が悲しくて潜入捜査中の自分をオススメされなきゃならんのだ。気付かれても困るが、俺の胸中が壮絶に複雑怪奇過ぎるわ。

「というか、勇気あるよなぁお前。こんな女子向けの店に一人で行くとか・・・せめて一言誘えよ、ちょっと寂し過ぎんだろ?」

「ほっとけよ。つか休み合わなかったし・・・あ、でも俺の他にだって、男だけで来ている客がいたからな。結構イケメンだったけど・・・デートの下見か何かかなアレ?」

ソウデスネ。いましたね。

黒髪ロングの最重要危険人物がね? 頻繁に甘味処で目撃するから、ココなら絶対に開店直後に来ると踏んで潜入しておいて大正解だった訳だけども。

まさか潜入している自分の目の前で、真選組の非番の若手と桂小太郎が差し向かいでケーキ喰い始めるとか・・・あまり心臓と精神に宜しくない光景まで目の当たりにするとは・・・思ってなかった訳で。

「ふーん、そりゃ災難だったな?」

「まったくっすよ・・・いきなり『相席よろしいですか〜?』って訊かれてつい頷いちまったんすけど、何が悲しくてファンシーな店内でヤローと差し向かい・・・チクショウ・・・」

その差し向かった相手が、絶賛指名手配中の大物攘夷志士だと気づいてりゃ、大金星だったんだけどな? あんまりコイツの挙動が自然だったもんだから、てっきり・・・

「いや、逆に考えれば、ラブラブバカップルと相席にならんで良かったんじゃないか? だから涙を拭け、な?」

「そうっすね・・・サキちゃんとの出会いでプラマイゼロだってことにします・・・」

「うん、まぁ・・・それはそれとして」

わざわざ口実作ってまで、こいつを探りに来たんだけども・・・どうやら良い意味での杞憂だったようだ。

「ああ、そういや・・・相席になった人もまた今度ツレと来るって言ってましたっけ。エリザベス・・・とか言ってたっけな、やっぱデートの下見だったんすね〜」

「へぇ・・・」

「あと、世間話してたら、なんか・・・『見所がある』とか言われて、連絡先貰ったんすけど・・・」

「・・・ふぅん」

「ああいう所に出入りするヤローって『やらないか?』的な世界の人っすかね、どう思います、山崎さん?」

「あー・・・うん、何て言うか・・・すごいねお前。大金星じゃん、ソレ」

「ああ・・・やっぱアタリっすか。どうすんだよもー・・・あの店近付けねえじゃんかもぅううー・・・!」

「・・・さてと、じゃあちょっと行こうか?」

畳に突っ伏して呻く若手君を引っ張り起こして、ニッコリと微笑む。

「・・・へ、えっ? ど、どこにっすか?」

「うん、取りあえず副長室」

身中の虫かと思いきや、有望な若手GETだぜ!

その許可をもぎ取るためと、このぴっちぴちの脳細胞に手配犯のデータをありったけ詰め込むために。逃がしてなるものかと、笑顔で暫定部下の手を引いた。

「・・・ちょ、なんなんすかぁ? 俺なんも悪いことしてませんよ!?」

「ああ大丈夫、怖いことじゃないから、安心してついて来なって」

―――うまく行けば、仕事で『サキちゃん』に逢えるかもよ?

「やります! 頑張りますから、よろしくお願いしまっす!!」

「そう、じゃ・・・頑張ろうね?」

甘い言葉にあっさり頷く、若手改めく部下(仮)に、おれはちょっとだけ考えを改めた。

取りあえず。何より最初に教え込むのは―――悪い大人にホイホイついて行かないように、だと。